新 色 マ ニ キ ュ ア は 恋 の 色 :

バタン、と大きな音がして、アメフト部部長である蛭魔が入ってきた。
そして一歩踏み入れたとたんに激しく眉間に皺を寄せて中に座って作業をしていたまもりに一言。



 新 色 マ ニ キ ュ ア は 恋 の 色



「なぁにしでかしたこの糞マネが!!」
「………」(無視)

まもりがちらりと蛭魔の方を見ると、イライラと腕組みをしてどぎつく睨んでいる。
そりゃあもう、一般生徒ならば縮み上がるほどの眼力で。
けれど、いつものことなので、まもりは自然に聞き流す。
そしてまた作業に没頭した。

「……無視か?いい度胸じゃねーか」
「ッさいわねー集中出来ないじゃない!それに私はそんな下品な名前じゃありませんー」
「…ッ!ほーぅ……そうくるか……」

蛭魔はブレザーのポケットに忍ばせた『脅迫手帳』に手を伸ばした。
まもりは横目で見て、ふうっとあからさまに肩を落とす。

蛭魔が登場早々にプチンと切れた理由、それはこの部室内に漂う鼻につく臭いが原因だった。
まもりは、パールブルーのマニキュアを塗っていたのだ。
この、締め切った部室で。

「セナのやな思い出全部全校放送でぶちまけてもいいのかなー」
「えぇ!?やめなさいよ何で私じゃなくてセナなの!」
「てめぇの曝すよりセナの曝した方が、お前のダメージはでかいだろーが」
「……分かったわよ!やめる!やめます!!」

実際は、まもりの恥ずかしい情報など何一つ持っていなかったからなのだが、そんなこと死んでも言えるわけでもなく。
けれどセナの名前を出しただけであっさりと抵抗をやめたので、まあ結果オーライ。
……そこまでセナが大切かと思うと、蛭魔は内心複雑でもあるのだが。

「で、何やってたんだよ。…シンナーっぽい臭いもすんぞ」
「マニキュア塗ってたのよ。この春の新色よ?夜友達とライブ見に行くの」
「……風紀委員が夜遊びか?」
「風紀委員だって人間だわ。それに、銃刀法違反常習犯のあなたに言われたくないわね」
「オレはいーんだよ。オレだから」
「意味わかんないわよ」

蛭魔はバッと窓を開けた。
春とはいえ、まだ冷える。風も冷たいのだ。
肌寒い風が流れ込む。

「ヤダちょっと蛭魔くん!寒いじゃないのよもー!」
「アホか。何で窓開けなかったんだよ。中毒になるぞ」
「寒かったんだもの。終わったら開ければいいと思って」
「でも見る限り全然終わってねーじゃねーか。何だこのコットンの山?」
「………うるっさいわね!私不器用なのよほっといて!」

蛭魔がひょいとまもりの手を取ると、その爪は酷い有様だった。
利き手ではないはずの左手。なのに、ムラがあるわ肌に塗ってるあわ。
それで、このコットンの山ね。蛭魔は半眼で納得した。

「もたもたしてっと筆の方固まっちまうぞ」
「だから!余計なお世話だってばぁ!!」

まもりは非常に難しい顔をして爪を睨んでいる。
そぉっと、そぉっと、はみ出さないように。
でもはみ出して、結局は新しいコットンを引っ張り出してそこに除光液を落とす。
始めはからかうのが楽しくてずっと見ていたが、ずっとそれの繰り返しなので蛭魔はだんだんイライラしてきた。

「……あぁもう!お前ちょっと手ェ貸してみろ!」
「えぇ!?ちょ、ちょっと蛭魔くん!?」
「ジッとしろジッと!」

ピシャリと言われまもりは仕方がなく手を動かすのをやめた。
何をするのかと思えば、蛭魔は面倒くさそうな顔でまもりの手を取り、除光液で爪のお粗末な塗り方のマニキュアをとりはじめた。

「ああ!ちょっと何で落としちゃうの!?せっかくがんばったのに」
「てめぇはアホだな?これの何処がきれーなのか言ってみやがれ!こんなん小学生にだって笑われンぞ」
「酷い!」
「だ・ま・れ!」

それから蛭魔はマニキュアの筆に付いた余分な液を落とし、優しくまもりの指を握ってその綺麗な爪に筆を落としていく。
慣れてはいないが早く丁寧に塗られていくそれに、まもりはただただ目を丸くするばかり。
だって、あの蛭魔くんがよ?私の爪にマニキュア塗ってくれてんのよ?いやー何この状況!
ボケッと成り行きを見守っていると、早々に左手は塗り終わってしまった。
ン、とイヤそうな顔で右手を顎で指し示すのでまもりは慌てて右手を差し出す。
嫌ならやめなさいよ。つくづく変な男ね。

「ねぇ蛭魔くん」
「あぁ?ぁンだ」
「ありがと。でも、何で塗ってくれるの?」
「てめーがやるとキリがねぇ。この台散らかされたらたまんねぇからな」
「………どぉも……」

そして塗り終わった。
両手を目の前に持っていって出来具合を見ると、まあ当然のようにムラもなくはみ出てもいない。
先ほどのまもりが塗ったものとは天と地の差、月とすっぽん。

「……きれー」
「これ普通。てめぇ汚すぎ。んなもん塗らねぇ方がよっぽどマシ」
「失礼ねぇ」
「オラ片付けろ!そろそろ他のクラス終わる頃だ。ッてか、てめぇ何でこんな早かったんだよ」
「最後の授業自習だったから。気分悪いって言ってここに来たの」
「……不良風紀委員め。失格じゃねぇかよ」
「やだー今日が初めてよー」

蛭魔は呆れながらまもりを見た。
とんだ風紀委員だ。猫っかぶりの二重人格だなこの糞アマ。
そこに、栗田が今日も大きな体でやってきた。

「二人とも早いね!」
「あ、栗田くんこんにちわー」
「姉崎さんこんにちわー」

そして今日も厳しい部活の時間がスタートするのである。





「あれまもり。その色新色?あんたにしては綺麗に塗れてるじゃない」
「うん。……好きな人に塗ってもらったのよ」
「へぇ、だから今日機嫌いいんだ?」
「えへへー」


end.
   b a c k :
 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル