O R I G I N A L B A T T L E R O Y A L E :

オレらは修学旅行で九州へ向かうはずやった。



京都から九州へ向かうのにバス使うとかどうかしてる。絶対正気の沙汰やない、と、ぐるぐる気持ち悪い中で相田蓮次(男子1番)は思った。吐きそうだった。何時間かかるのかなんて考えたくもない。大体さっき学校を出発したところでまだに高速道路にすら乗っていない。情けない自分に腹が立つと共に、やはり移動にバスを使用すると決めたどこぞの教師どもが憎かった。あれや、普段の仕返しやな、絶対そうやわ、と蓮次は思った。
ごく自然にさも当然のように隣に偉そうに座っていた椿亮祐(男子11番)は、気持ち悪そうに口元を押さえた普段のオレ様オーラのかけらも見えない蓮次を、先ほど寸分の遠慮も見せずに笑い飛ばした。どうしてこんなヤツが親友なのかと本気で思った。笑い飛ばした後でしっかりビニール袋を手渡した意図というのは、果たして親友に対する配慮か、はたまた自分に降りかかる被害を事前に防ぐためなのか。
「よぉ蓮次、顔色悪いやんか」
「あーちきしょ、お前黙れや。うっさいわ」
「バス酔いか?あのクールでフェミニストが売りのガールキラー・相田蓮次様が」
「アホなセカンドネームつけんなや。オレ昔からバス無理やねん」
ひょいと座席を乗り出して蓮次の顔をのぞき込んだのは若狭昂吾(男子15番)だった。昂吾の彼女である押谷智世(女子3番)も笑顔を覗かせている。厄介なバカップルが後ろに来たのかと、蓮次は頭を抱えたくなった。なにせ、昂吾と智世は親公認で付き合っている。そのため(なのかどうかは知らないが)、やけにオープンで所構わずべたべたやっている。しかも二人揃って頭の回転が速く、その上毒舌なもんだから。少なくとも自分はこのバカップルに遊ばれているのだという自覚はあった。
「相田くん車苦手やったんやー。意外やなー」
「オレもそー思うわ。普段のあのカッコヨサからは全然予想持つかへんしな」
「うんうん」
きゃははと可愛らしく智世が笑った。その隣でデレデレとだらしなく昂吾が笑う。付き合って1年にもなるのに、二人は未だ付き合ったばかりの初々しいカップルのような付き合いをしていた。それが、蓮次にはうらやましくもあり鬱陶しくもあるわけで。
キッパリと無視をして何となく視線を通路を挟んだ隣の座席に目を向けると、そこには甲斐佑馬(男子5番)と瑞浪波留(男子15番)の幼なじみ仲良しコンビが座っていた。会話が聞こえる。
「佑馬佑馬、お前は菓子何持ってきたん?後で交換しよーなー」
「えーけど。ハル、お前ちょい持って来すぎとちゃう?」
「ンなことあらへんよ。少ないくらいやし」
「全然少ないことないって。鞄半分菓子やんか…。あれ、お前弁当は」
「え、せやからこれ弁当代わりやねんて。僕野菜とか嫌いなん、知っとるやろ」
「……それやから一人暮らしの阿呆はあかんねや…それで太らんのが不思議やね」
「あ、体質よ体質。僕食っても食っても太らんの。てか、むしろ成長せん?」
あはは、と波留は破顔した。小柄な体格に愛嬌のある顔立ちで、それで微笑まれるとたとえ男であろうと多少なりともドキリとしてしまう。そんな、いわば中性的な男だった。だからといって性格まで女々しいわけではないし、むしろ男らしさ満点。部活だって、蓮次と一緒にサッカー部のフォワードとして大活躍していたのである。佑馬はと言うと、これは波留とまた正反対の人間だった。身長が高く、バスケ部で鍛え上げられた無駄のない筋肉質な身体。それに、これまた別の意味でオンナ受けしそうな、すっきりと目鼻立ちの整った俗に言う「カッコイイ」顔。この二人が一緒にいると、まさに両極端な「カッコイイ」人間コンビなのだ。まあ、蓮次も「ガールキラー」とまで言われるほどの顔立ちはしているとはいえ。
バス内は騒然としていた。今から行く九州の地に踏み入れたことがあるのはほんの数人だけで、大抵の生徒が初めてのことだったので、まあ盛り上がるのも必然だろう。その煩さすらも、蓮次のバス酔いに拍車を掛けている要因の一つだった。普段の教室の中ならば、むしろ蓮次が中心となって騒ぎ立てるのだが、今はそんな元気もやる気もない。幾人かの女子(例えば結城麻沙実(女子16番)や、樋口祐子(女子10番)とか)は心配そうな目で蓮次を見ていた。
「はいはーい、滝川先生からの差し入れやよ〜」
「おーなんや蓮次。まだ車に酔うの治ってへんかったんか」
後ろの座席から学級委員である森口和志(男子16番)と藤野碧依(女子12番)が、何やら平たい箱のような物を持って蓮次の所まで来た。和志と蓮次は幼稚園のころからの友達で、もちろん蓮次は車酔いが激しいことくらい知っていた。そして、それはもう治る治らないのレベルじゃないことも。
二人が手にしていたのは、なんとゴディバのチョコレートの箱だった。ほれ、と和志が亮祐に箱を突き出すと、碧依は1人1個やで、ノブちゃん(滝川俊信だから、ノブちゃん)太っ腹よねーとにこにこして言った。たしか蓮次の覚えている限りでは、碧依は大のチョコレート好き。
オレは無難にミルクチョコレートを選んでおいた。亮祐は中に何やら変な物が入っている(きっとゼリーか何かだが、蓮次はそう言うのが苦手だ)チョコレート、隣から顔を出してきた佑馬と波留は、2人ともホワイトチョコレートを選んだ。
口に放り込んだ。あまりチョコレートの類は食べたいとも思わないが、それでも高級なチョコレートはそこらの市販のチョコレートとはまた違う味わいがあり、そんなに嫌な気はしなかった。亮祐は後ろを振り返って滝セン(滝川だから、滝セン)を探すと、大きな声で太っ腹ー!!と怒鳴った。みんな大笑いした。
やっと高速道路に入った。時間は昼時。そろそろ昼食をとろうか、というところ。
それぞれ個々に弁当を広げたりまだいらないからと友達とお喋りをしたりというバラバラで曖昧なこの時間帯、何故か蓮次は眠たくなった。きっとバスが出る前に飲んだ、バス酔いの薬(あんなの効かないけれど)のせいかと思った。
「なあ亮祐。オレ寝るから肩貸せ」
「はぁ?まだ12時前やぞ?昨日ちゃんと寝たんか?」
「ちゃうって。オレちゃんと10時前に寝てんで。せやなくて、朝飲んだバス酔いの薬のせいやろ」
「あそ。重かったら容赦なく叩き落とすでな」
「ンなことしたら殺したるで覚悟しとけや」
「あーハイハイ分かったから寝ろ。肩なら貸したる」
「サンキューな。じゃーおやすみ」
「ハイハイ」
それだけ言うと、蓮次は次の瞬間寝入っていた。深い深い眠りに。夢も、見なかった。



全てはこの時代この国に生まれてしまった彼らのせいである。
およそ25年も昔に狂ってしまってからこの国はずっとこんなので、それはもう誰にも責められるハズがない。
ただ、目が覚めると彼らはもう、元の日常になど戻れはしないのだ。


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