遠 く の 星 に 宣 戦 布 告 :

試合前の、このピリピリした雰囲気がまだ少し恐い。
「……っしゃ!」
一人で小さく気合いを入れ直すと、宍戸はラケットを強く握りしめた。

別に、今日は公式戦じゃない。校内の試合形式の練習だ。これでレギュラー落ちするとか、そういう心配はいらない(とはいっても、準レギュラーに負ければやっぱりレギュラー落ちだ。レギュラーに格下相手の負けは許されない)。
けれど、たかが練習といえども、普通の練習と比べれば選手の真剣味はぐんと上がり、公式試合そのもののような気迫を感じる。

しかも、今日の相手は跡部だ。

一度『負け』を経験したから、以前よりももっとずっと、『負け』を恐れるようになった。
本当の恐怖は、それを経験した者でないと理解しがたいからだ。
負けたあとの無力感、絶望感、喪失感、それをすべて知っている宍戸は、それがどんなに辛いかも知っている。
だから、恐い。これは当然である。

けれど、恐れてばかりでは先に進めない。

帽子を被り直した。
既に手の平に滲んだ汗をズボンで拭いて、持ち方を確認する。
ガットを微調整して。
万全の体勢で、跡部と対戦する。

どうしようもないくらいに高鳴る鼓動。
まるで、初めて試合というものを経験したあの日のような。
緊張してる?
いや、嬉しいんだ。

無様な試合をしたら、また跡部に何を言われるか分かったモンじゃない。
これ以上なめられないためにも、死ぬ気でやる。


強くなった自信はある。
でも、まだ跡部に勝てる自信は全くない。
相手コートで不敵に笑む跡部は、『負け』など知らないだろう。

それでも。

(オレは、戻ってきたんだから)



「跡部!今日こそてめぇに、勝つ!!!」


end.

   b a c k :
 

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