は や く 大 き く な り た い ! :

「悪かったって!」
「もういいわよ!一角はあたしのこと嫌いなんでしょ、もう別れ……!」

一角は女の腕を引っ張り、強引に抱きしめた。そして、深く深く口付ける。
最初は目を見開いて抵抗していた女だが、一角が何度も角度を変えて口付けている間に、やがて大人しくなった。


そっと唇を離すと、女はとろんと目を開いて一角を見つめた。
一角が支えていないと今にも崩れ落ちてしまいそうである。
さっきまですごい剣幕で怒っていたのが嘘のようだ。
そのまま抱きしめて、一角は頬にかかっていた女の長い髪を、耳にかけてやった。
そしてその耳元で、出来るだけ色っぽい声を意識して、囁く。

「……オレが悪かった。ごめん…な?」
「…ン……」

しばらく抱きしめていると、女が我に返って急に一角から離れ、「じゃあね」と言って帰っていった。
(女って簡単だよなァ……)
唇を袖で拭きながら、一角はボケッと思った。

不意に、視線を感じた。

「ぁ?」
「……一角さぁん」
「ッ!へ……あ、菜子!?」
「はぁい」

自分の名を呼ぶ舌っ足らずな幼い声に驚いて、一角は勢いよく振り向いた。
ごそごそと茂みから頭に葉っぱを付けて出てきたのは、何故か一角に懐いている菜子だった。
茂みと言っても、一角のような大の大人など身体の半分は出てしまいそうな程度の、だ。
全然気付かなかった。さすがは5歳児、かくれんぼの達人である。
危なっかしい足取りで駆け寄ってくる菜子を、一角は急に穏やかになった気持ちで抱き上げた。
菜子は可愛い。
そりゃあもう、さっきのわがままな女なんかよりは数百倍。
(………イヤ待て!オレは別にそーいう気はねぇぞ!)
心の中で、誰にと言うわけでなく言い訳をするが、すればするほどに苦しい。

「菜子。お前こんなとこで何やってたんだよ?」

左腕に座らせて、向き合うようにして話しかける。右手はサラサラで綺麗なクリーム色の髪の毛を梳いている。
菜子はニコッと笑って応えた。

「うん?かくれんぼしてたの。一角さん、おにだよ」
「へ、オレが鬼?んじゃ、見つけたー」
「うはー見つかったぁー」
「ぁんだそりゃ」

菜子が両手で頭を抱える。
自分で声を掛けて自分で茂みから出てきたくせに、「見つかったー」と言う。
しかもその顔はとても嬉しそうだ。
(ガキってよっくわかんねぇなー!)
菜子は5歳児。ガキまっしぐらだ。

「一角さぁん?」
「ぁん?何だ?」
「さっき、ちゅーしてた」
「……ぁあ(ゲッ)」

そういえばそんなこともしてたっけ、と一角は先ほどのことを思い浮かべた。
確かにした。それも、濃厚な、慣れてる女も腰が砕けるほどのヤツを、だ。
(あーもう。ツイてねぇな)
それも菜子は見ていたらしい。全く、覗き見なんてイイ趣味してる。
一角は何故か焦りを感じた。

「ちゅーって、すきな人たちがするんだよ」
「…おぅ。そんな感じだな(けど一部例外ありき、だよな)」
「じゃあ、一角さんはさっきの人すき?」
「……うんまぁ。程々には」
「菜子は?」

(……は?)
一角はジッと目を覗き込んでくる菜子を見た。
菜子は少し顎を引いて、一角の様子を伺うようにして上目遣いで見てくる。
その様子は、ハッキリ言って、可愛すぎる。

「………ぇ?」
「一角さん、菜子のこと、すき?」

躊躇うと、菜子は「きらいなんだ……」と泣きそうな顔で俯く。
バカな一角でも分かる。この展開は、つまり。

「……や、好きだし。うん。オレ、菜子のこと好きだよ」
「!ホント!?」
「ああ」
「菜子も一角さんすきー」
「おぅ。あんがと」
「じゃあ、菜子にもちゅうして?」

(やっぱりか―――――――!!)
一角は泣きそうになった。
何が悲しくて、こんな小さなガキンチョに口付けをせねばならんのか。
そんなところを誰か……やちるや恋次、修兵、乱菊なんかに見られようものなら、次の瞬間から一角の呼び名は「おい、ロリコン野郎」だ。
『ロリコン野郎』よりは『つるりん』の方がいい。断然いい。いや、どっちも嫌だけれど、どちらかと言えば。
けれど。

「……いや、あのな、菜子」
「…ちゅうしないの?」
「…だから、その……」
「やっぱり菜子のこときらいなんだ……」

大きな瞳は今にも大雨が降りそうに潤んでいる。
(………どうする?!どうするオレ!!)
出来れば菜子のこんな姿は見たくない。
昔から、女と子供の泣くところにはめっぽう弱かった。
それに加えて、菜子はと言えば、ロリコンにとっては格好の餌食とでも言うように可愛らしい容姿。しかも、今現在、泣きかけ。
一角はたじたじだ。

「菜子は一角さんのこと、だいすきなのに……」

(あ―――――もうツイてねぇ!!ちきしょ、どうにでもなれってんだ!!!)

「菜子」
「?」

ちゅ。

(やっぱやわらけぇの)
啄むように、出来るだけ軽く、一角は口付けをした。
菜子を満足させてやるために、可愛らしい音を出して。
菜子の顔を見ると、さっきまで涙をいっぱい浮かべていた大きな瞳は見開かれて、頬は軽く上気している。
何が起こったのかよく分からないのか、ぱくぱくと口を開いたり閉じたりしている。
(は、やっぱ可愛い)
一角は知らず知らずのうちに微笑んでいた。

「ッ…一角さぁあんっ!」
「うぉ!?」
「菜子、一角さんだいすきだよ!!」
「おう。知ってンぜ」

菜子はギュッと一角の首に抱きついた。
その背中を、一角はポンポンと軽くなでてやる。
(もーイイや。別に)








その後。一角と菜子が、別れてから。

「オイ、ロリコン野郎」
「……ッ!(ビクッ)」
「あんな小さい子に手ェ出して」
「れ……ッ恋次!修兵も!?」
「現世じゃ犯罪者だな。とりあえずおめでとう、今日から君は『ロリコン野郎』だ」
「やっぱりかよ!!」

案の定。
がんばれ一角、人の噂は75日。



end.
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